①オーバーユース:オーバーユース症候群

 人の身体は使わなければ機能が低下し、使いすぎれば機能障害が起こり、適度に使えば発達します。オーバーユース症候群は「使いすぎ症候群」と訳されますが、練習のしすぎや不適切な練習方法によって徐々に痛みが生じ、腰痛、肩痛、ジャンパー膝、シン・スプリント等で発症します。
オーバーユース症候群は痛みを伴う事で発見は容易なはずですが、スポーツの現場では少しくらいの痛みで練習を休めない状況があって(特にジュニア)知らず知らずのうちに悪化させている例も多いようです。指導者が知識をもって選手の状態を把握し、勇気を持って適切な休息をとらせる事で予防可能な事例が数多く存在します。つまり、練習後に必ず選手一人一人の疲労度をチェックし100%のパフォーマンスが発揮できていない場合には練習の質を変えたり量を減らすなどの工夫が大切です。特に痛みがある場合にはより注意深いチェックが必要です。適度の休息があってこそトレーニング負荷が有効となり漸進的な能力向上が期待できます。
もう一つ大切な事は練習前のウォーミングアップとストレッチ、練習後のクールダウンとストレッチを充実させる事です。不幸にして肉離れや腰痛を発症した際、十分なストレッチが行われていたら予防できた例は多く存在します。

②オーバートレーニング:オーバートレーニング症候群

 オーバートレーニング症候群(OTSと略す)は、疲労回復不完全状態でのトレーニング負荷がより大きな疲労蓄積状態を進行させた状態をさします。OTSはトレーニング又はそれ以外のストレスの蓄積で生じ、結果として運動パフォーマンスの低下をきたし、それに伴った生理学的・精神神経学的な異常所見を呈する事もあるが、諸検査では全く異常所見が無い場合もあり、適切な休息をとったにも関わらず症状の回復に少なくとも数週間、場合によっては数ヶ月以上を要する事も多いと定義されています。軽症なら日常生活に支障なくジョギング程度なら問題なくこなせますが、中等症になるとジョギング中でもやや辛いと思うようになり重症化すると日常生活にも支障を来たすように疲労感、不眠、食欲低下、鬱状態が現れるようになります。
OTSの早期発見は客観的指標に乏しく、アスリートのパフォーマンス低下や疲れやすい等の自覚症状を注意深く観察するしかありません。
オーバーユース症候群個々の疾患の詳細はここでは省略しますが、痛みが出現した早い段階で専門家への受診をお奨めします。

③子供のスポーツ(ジュニアの一部を含む)

 子供の間は学校教育の一環としての団体訓練・技術の習得がメインであり嘗ては「練習中に水を飲むな」「下半身強化には、うさぎ跳びが基本」等と誤ったトレーニングが多く行われてきました。指導者の指示は絶対である時代が今も継続しているようです。
子供の特殊性はまず成長過程にあることです。
小学校高学年から中学校にかけて1年に10cm以上も身長が伸びたり、体重が急激に増加する時期があります。この時期には骨と筋肉のバランスがうまくとれず身体の一部に大きな負担がかかっており、特殊な病態を発症します。代表的な例が膝周囲の障害であるオスグート・シュラッター病や膝蓋靭帯炎です。それらを踏まえて最大伸長期(1年間で最も身長が伸びる時期)前には積極的な筋肉トレーニングは行ってはならないとされてきました。現在トレーニング理論の進歩により負荷の軽いチューブ等の器具を使用したトレーニングは可能であるとの意見が多く積極的に取り入れている指導者も多いようです。
そしてこの年代は基本的には弱い事を忘れてはなりません。
前述の骨と筋肉の成長のアンバランスは局所的な弱さを持つ上に筋肉・靭帯自体が発育過程であり圧迫・進展などの物理的なストレスに対して弱く、後遺症を残すような重大な骨軟骨の障害が発生する可能性があります。骨端線損傷や若木骨折等小児特有の骨折像を呈する場合も多いのです。
また厄介なことに個人差が大きいことも問題です。
たとえ同年齢であっても身体的に個人差があるように、技術習得の程度や期間の違いにも差があり、指導者が画一的な練習を強制することはマイナス面を引き起こすことも十分に考えられます。決して身体の小さい子や足の遅い子にまで過大な負荷をかけてはいけません。ジュニア有望選手の両親や家族の過大な期待が、指導者にプレッシャーをかけるあまり結果をあせってしまう事も一因として挙げられます。野球・サッカー等の団体スポーツではレギュラーになる為の選手同士の競争が親同士にまで発展し、より複雑な様相を呈しています。
小児期のスポーツは育む時期であるとの認識を持ち、単一のスポーツを反復練習するよりも幅広いスポーツを心がける必要があります。現在ではコーディネーショントレーニングが再認識され、年少者に積極的に取り入れている指導者も多くなってきました。コーディネーション能力とは状況を眼や耳など五感で察知し、それを頭で判断し、具体的に筋肉を動かすといった一連の過程をスムースに行う能力の事で、より専門的な技術を習得するにあたっての、前提条件とも言うべき動き作りと深く関わっています。
コーディネーショントレーニングは現在7つに分類されており、1.定位能力 2.変換能力 3.リズム能力 4.反応能力 5.バランス能力 6.連結能力 7.識別能力がそれにあたる。これらの訓練の中には鬼ごっこ等昭和の時代には子供の遊びの中で習得したものも数多くあります。多くの指導者が積極的に理解し実践することが望まれます。

④中高年の方の特性

 野球・サッカー・テニス・スキー・ゴルフ・バレーボール・バトミントンなどのレジャースポーツは中高年になっても日常的に楽しむ人が多く、ウォーキング・ジョギングから発展してランニングや自転車を楽しむ人も多く見受けられます。
また最近では生活習慣病の予防・治療のために運動療法が積極的に取り入れられています。これまでの薬による治療に先行或いは並行して、身体を動かすことによる新陳代謝の促進、筋肉量増加による基礎代謝の亢進、有酸素運動によるカロリー消費増加が主な目的です。目的は何であれ中高年のスポーツは楽しむことを第一とすべきです。見た目では加齢を感じさせない場合も多いのですが、体内では確実に加齢が進み体内水分量の低下に伴い骨・筋肉・腱はもろくなり、関節・関節周囲は硬くなっています。神経を介する反射能力は確実に鈍くなっており、多くの場合体重も重くなっているのが現状です。
それを忘れて若い時と同じように運動すると、肉離れや腱・靭帯損傷を発症する原因になります。また心肺機能は同様に低下しているので、過度の負荷は命を落とすことにもなりかねないのです。元来楽しむべきスポーツは日ごろのストレスから身体を開放し、精神的なリフレッシュと充実感を味わう為のものと認識して欲しいものです。また身体が衰えてから行う中高年のスポーツはスポーツ医科学の正しい知識によるメディカルチェックを是非受けて頂きたいと願います。