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LECTURE

特集講義

丈夫な体を作るBCAA

スポーツ用サプリメントを語る時まずBCAA(分岐鎖アミノ酸)を避けては通れません。
BCAAの重要性はたんぱく質の項でお話しましたが、トレーニング終了後直ちに夕食で補給したとしても(実際には無理ですが)golden timeである30分以内にBCAAが豊富な肉類を体内で吸収・分解してBCAAにまでにする事は不可能です。BCAAをアミノ酸として摂取すれば15分後には血中に現れ30分後にはピークに達することは証明されています。BCAAのバリン:ロイシン:イソロイシンの配合比は1:2:1が理想である事はアミノ酸輸液の研究で古くから知られており、運動により大量に消費された準必須アミノ酸であるアルギニンを配合したサプリメント(以下BCAAサプリメント)がスポーツには欠かせません。BCAAサプリメントの運動前摂取は筋肉内のBCAAを温存出来る事が確認され、しいては筋肉内グリコーゲンも温存できる事がわかってきました。競技時間の長い種目では試合中に摂取する事によりパフォーマンスの維持が望めます。プロテインでは絶対にあり得ない効果です。また運動直後の筋肉修復の為にはBCAAサプリメント+グルタミン+高GI糖質が理想とされますが、高GI糖質やグルタミンを運動前・中には摂取する事はマイナス面があり、区別する必要があります。運動前や運動中に摂取可能と書かれたサプリメントは数多くありますがBCAA+アルギニン以外のアミノ酸が配合されたものが氾濫しており、これらは絶対に避けるべきです。ちなみにグルタミンは非常に不安定なアミノ酸でうまくペプチド化されていない物は注意を要します。またBCAAは非常においしくないアミノ酸ですのでBCAA飲料等は糖質や他の物質で必ず味付けが成されており、必ずしも運動中に摂取する事が望ましいとは言いがたい製品もある事を忘れないで下さい。BCAAサプリメントは運動前・中・後何時でも摂取可能な唯一のサプリメントです。筆者は錠剤化された糖質を配合しないBCAAサプリメントを推薦します。BCAAの三種の摂取が単独で過剰になった場合アミノ酸バランスが崩れ免疫機能の悪化を来たす懸念があるので、注意を要します。バリン:ロイシン:イソロイシン比1:2:1を守って摂取する必要があり、サプリメントで補充摂取する場合には特に重要です。骨格筋蛋白合成はBCAAの血中濃度に依存している事が判っており、常に血中のBCAA濃度を上昇させておくことがパフォーマンスの維持に重要です。
BCAAのうちロイシンは必須アミノ酸中1日の所要量が最大ですが、幅広い食品に含まれているため通常の生活をしていればまず不足する事はありません。肝機能を高め筋肉強化に効果的な事がわかっており運動で疲労したアスリートには最適です。また筋蛋白合成を促進するのはBCAA共通の作用ですがロイシン特有の働きとして、メッセンジャーRNAの翻訳速度を上昇させることやインスリンと協力してアミノ酸やグルコースの細胞内への取り込みを促進する働きや筋蛋白質分解抑制作用がある事も判明しています。
イソロイシンは身体の成長を促進し、神経の働きをサポートし、血管拡張、肝機能向上、筋力強化作用があると言われています。また疲労回復効果が高いアミノ酸とも言われていますが、グルコースの細胞内への取り込みを促進する作用があるからかもしれません。
バリンは成長を促進する血液中の窒素バランスを調整する働きに優れているといわれています。何度もいうようですが、BCAAはトータルに摂取すべきであり、バリン:ロイシン:イソロイシン比1:2:1のバランスが非常に大切です。
アルギニンは成長ホルモンリリーザーの代表格で成長ホルモンの分泌を促進する作用があります(他に遊離アミノ酸であるオルニチン等も関係)。また成長ホルモンを体内で作成することにも関わっています。成長ホルモンは先ほども述べたように成人になってからも、蛋白合成の為に非常に重要で不足してしまうと体脂肪増加、筋力低下、骨密度減少、疲労、うつ状態、認知能力低下など様々な症状が出現します。アンモニアの代謝促進にも関わっており脳疲労予防作用、肝機能強化等があり、脂肪燃焼・免疫力向上・滋養強壮など体内での需要が非常に大きいアミノ酸です。勿論成長期の子供にはより重要と言えます。
グルタミンは非必須アミノ酸ですが、人体中で最も豊富なアミノ酸であると言われ、骨格筋中にプールされているアミノ酸の50~60%が、またプラズマ中の20%以上がグルタミンであると言われています。しかしスポーツや病気でストレスを受けた時に腸管や免疫細胞からの要求量が急激に高まり体内での合成能力を上回る状況になります。そのため条件下必須アミノ酸と呼ばれています。多くのスポーツ選手が風邪をひきやすいことや、オーバートレーニング症候群を引き起こす原因のひとつと言われています。また筋肉合成には必須のアミノ酸であることもお忘れなく。グルタミンは運動する人には必須のものです。但し摂取時期は運動直後に限定されます。グルタミンは溶解度が低く、不安定なためグルタミン酸とアンモニアに分解されます。BCAA含有マルチアミノ酸を運動前に摂取することが適切でない一因です。グルタミンはプロテイン製品にはグルタミン酸量で表示されているものが大半ですが、グルタミン量は約50%程度と推測され、体内で神経毒性を持つピログルタミンを産生する可能性があります。大部分が小腸の細胞で消費されるため質の良いグルタミンペプチドでなければ血液中に確保できません。しかも市販されているグルタミンの多くは化学合成された物が使用されています。最近天然素材の優れたグルタミンペプチドが開発され一部の製品で使用されるようになってきました。この場で具体的に商品名を記載することが出来ないのが残念ですが、最低限グルタミンペプチドと表示されたものを使用しましょう。
この場で人間の身体を作っているアミノ酸20種類全てのお話をすると膨大な量になりますので今回は省略しますが、一つだけ運動前・中に摂取したくないアミノ酸について触れておきます。それはトリプトファンです。トリプトファンは脳疲労物質であるセロトニンの前駆物質であり、運動中のパフォーマンス維持には、大敵です。しかも十二指腸にあるセンサーで感知されると胃内容の排出を遅延させる働きがあります。つまりせっかくの水分補給の効率を著しく低下させることになります。ちなみにアメリカやカナダではトリプトファンは販売禁止であり、これを含んでいることを明確に記しているTVCMでも有名な某飲料は同国内では発売禁止です。(メーカー担当者に何度か排除を求めたのですが)この件に関しての真相は嘗て日本のメーカーでの製造過程のミスで1500人のアメリカ人が血行障害や筋肉痛を訴え38人もの死亡者を出したことが原因と言われています。