LECTURE

特集講義

 骨は毎日骨形成と骨吸収を繰り返しています。年間15%程度が代謝回転しているといわれています。成長期には骨形成が骨吸収を上回る為骨総量は増加します。35~40才以降には骨吸収が逆転優位にたち骨総量は低下し閉経期を迎えた女性は骨粗鬆症の心配をしなければなりません。
ここでは骨形成のメカニズムとカルシウム摂取のポイントを整理します。

 大半の人が骨はカルシウムで出来ていると思っているかも知れませんが、鉄筋コンクリートで例えるならカルシウムは単なるセメント成分にすぎません。高層ビルが鉄筋の存在なしにセメントだけで作られる事は絶対にありえません。実は骨の鉄筋部分はコラーゲンなのです。そこにカルシウム、リン、マグネシウム等のハイドロキシアパタイトがセメントとして沈着されるのです。まずこの事を理解して下さい。丈夫な骨を作るためにはまずコラーゲン合成を高める必要があるのです。人の体内でのカルシウム代謝回転は摂取量を増量しても直接骨形成に反映されません。
たとえば食事で1000㎎のカルシウムを摂取した場合腸管から吸収されるのは350㎎程度で腸管から分泌される150㎎を加えると糞便中に800㎎排泄されます。また尿中に200㎎程度排泄されますから食事摂取した1000㎎と同量が排泄される事になります。
体内の細胞外液と短時間で交換可能な分画に5000㎎程度のキャパシティーがありますがカルシウムの最大貯蔵場所である骨には1000000㎎程度存在しますが骨吸収と骨形成(骨再造形)で1日500㎎程度のやり取りがあります。この部分でのやり取りで如何に骨吸収を抑えるかが最大のテーマです。
僅か体内での分布が0.1%に過ぎない血中のカルシウム濃度は甲状腺C細胞のカルシトニンと副甲状腺ホルモンで非常に狭い範囲内にコントロールされています。さらに小児期・思春期には60%程度であったカルシウムの腸管からの吸収率は壮年期には30%老年期には20%まで低下する事が報告されています。
消化管でのカルシウム吸収率をアップするためには活性型ビタミンD3が有効であることをご存じの方も多いでしょうが、ビタミンD3の主たる作用は血中カルシウム濃度を上昇させる作用であり、消化管からの吸収量が不足すると骨からの骨吸収をも増加させてしまう事を知っておいて下さい。その意味ではカルシウム摂取量は絶対的に確保する必要があります。活性型ビタミンD3以外にも牛乳蛋白質・CPP(カゼインホスフォペプチド)・Mg 等が腸管からの吸収率をアップします。

さて、最重要課題は骨塩を増量するエビデンスです。
骨粗鬆症の最大の原因は若年時の骨塩獲得不足とエストロゲン不足です。
その意味ではエストロゲン投与はエビデンスもありますが、副作用の問題でお勧めできません。ビスフォネート剤は特効薬とされましたが、吸収率が低すぎるため他の薬剤摂取と一定時間以上の間隔を必要とする為、整形外科医以外ではあまり推奨されません。特に最近では歯のインプラントの際、特発性顎骨壊死の発生率が高く問題になっています。その意味では疑似性のエストロゲン剤である塩酸ラロキシフェン(商品名;エビスタ)とサプリメントとして使用可能な大豆イソフラボンが効果的です。
イソフラボンは京都大学家森教授がWHOより依頼された研究によりその効果が立証され、1999年米国FDAが認可した由緒正しき成分です。数年前厚生労働省が重箱の隅をつつくような論文を掲載し発癌の問題を指摘しましたが、大規模試験により乳癌、子宮癌、前立腺癌の発生率を低下させたデータも家森教授が発表しています。
閉経後女性は1日40㎎程度摂取する事が望ましいとされています。骨粗鬆症の他に更年期症状の緩和、動脈硬化防止、脂肪分解促進、耐糖能正常化等も報告されています。

閉経後骨粗鬆症を予防するためには骨形成が盛んな20才代までに骨量を可能な限りアップする事が最重要です。
そのためにはまず鉄筋となる丈夫なコラーゲンを作ることです。これは身体作りと共通しますので筋肉作りと蛋白質も参考にして下さい。成長ホルモンの分泌を活性化するための運動と栄養補給そして睡眠がキーを握っています。若年時の運動習慣が骨塩増量を促す事は、多くの報告があり最も効果的な方法と言えます。この際偏食があると例外が存在することになります。蛋白質を中心としたバランス良い食事は大切ですし、カルシウム摂取量の不足は絶対に避けなければなりません。乳製品でカルシウムを摂取すると牛乳蛋白質やCPPが含まれているのでさらに効果的です。

今までは骨塩増量の為の大豆イソフラボンの有用性を色々と推奨して来ましたが、残念な事に日本では厚生労働省の指導により、大豆イソフラボンのサプリメント摂取は、元来豆腐、納豆等大豆製品の摂取量の多い日本人にとっては過剰となる恐れがある為、多く摂取すべきではないとの見解がなされたため、削除しました。